「二銭銅貨」江戸川乱歩 あらすじ(ネタバレ)感想|暗号解説や5万円の価値とは?

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江戸川乱歩の記念すべき処女作「二銭銅貨」、デビュー作にその作家のすべてが詰まっているなどと言われますが、本作は乱歩らしい要素がたしかに凝縮されています。

変装、トリック、大胆不敵な犯行など、魅力たっぷりの物語。江戸川乱歩の入門におすすめの一作です。

本記事では、この作品のあらすじ・トリックである暗号解説など考察しています。ぜひご覧になってみてください📖

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「二銭銅貨」あらすじ(ネタバレあり)

簡単なあらすじ

芝区にある電機会社の工場の給料日に、現れた紳士泥坊。新聞記者に変装し、まんまと支配人の隙をつき、職工たちの給料5万円を盗んでしまった。刑事の入念な捜査によって、ついにお縄になるのだが、盗んだ5万円の在処については白状しなかった。そして、盗まれた5万円の給料に5千円の懸賞金がかけられることとなった。

 

場末の下駄屋の2階の6畳に下宿する貧乏青年「私」と友人の松村武は、この事件に強い興味を持っていた。ある日、松村は机の上に私が置いた二銭銅貨に目を留める。そして、二銭銅貨の秘密に気づき、ついに盗まれた5万円の行方をつきとる。そして、「私」に得意げにその謎を解き明かしていくのだが、私の反応は・・・

 

詳細なあらすじ(ネタバレあり)

芝区にある電機会社の工場の給料日に新聞記者が取材目的で支配人を訪ねてきた。支配人は気を良くし熱弁していたのだが、ちょっと便所に立った隙に、記者はいなくなっていた。支配人は不作法なやつだと思った程度で気にもとめなかったが、すぐに賃金払いの金がなくなったと大騒ぎになる。

 

新聞記者は実は紳士盗賊として世間を騒がせていた大泥棒だったのだ。支配人が泥棒の特徴を思い出そうとしても、鼈甲ぶちのめがね、口ひげなどどれも変装の定番で犯人像を絞るのにはたよりない特徴ばかりだった。

 

しかし、刑事の丹念な捜査によってついにお縄になることとなった紳士泥棒。そのきっかけは、犯人が吸っていたエジプト煙草”FIGARO”だった。この煙草の吸殻が旅館の前に落ちているのを発見、その旅館の宿泊者の部屋から鼈甲めがねやつけ髭が出てきて、逃げれぬ証拠となって逮捕に至ったのであった。

犯行の手口などについては、詳細に語った犯人だったが、肝心の金の在処については何一つ白状しなかった。そして、5千円の懸賞がかけられることになった。

 

場末の下駄屋の2階の6畳に下宿する貧乏青年「私」と友人の松村武は、「あの泥棒が羨ましい」などと言うほど、生活がひっ迫していた。

ある日、松村が机の上に置いてあった二銭銅貨に異様な興味を示した。その二銭銅貨は、私が煙草屋のおつりでもらったものだった。すると、松村は私に煙草屋の情報について質問してきた。店には婆さんの他に爺さんもいること、一人娘は監獄の差入屋に嫁入ってること、などを私は松村に教えた。

すると、松村は一人考えこみ、私の食事の誘いも断り考え続けた。私が飯屋から戻ってくると、松浦は按摩を呼んで、何やらおしゃべりしながら肩をもませていた。その後、机に2枚の紙を広げ、熱心に比較し何やら書いては消しを繰り返していた。

 

松村は、私に10円を借りて、何も言わずに出かけて行っき、私はそのまま寝込んでしまった。翌朝10時頃に、目を覚ますと枕元に、風呂敷包みを背負った商人風の男が立っているのに驚いた。よく見ると、それは友人の松村で

「この風呂敷包みの中には、君、五万円という金がはいっているのだよ」

と言った。泥棒が隠した五万円をどこかから持ってきたのだった。

 

松村は警察も発見できなかった五万円を手に入れたことに、有頂天になっていた。そして、嬉しそうに謎を解いた経緯について語りだした。

発端は、私が置いた二銭銅貨だった。銅貨の側面に線が入っており、パカッと開く仕掛けになっていた。中から1枚の紙片がでてきた。

これが暗号文ではないかと考えた松村、南無阿弥陀仏の六文字の組み合わせであること、点字が六つの点の組み合わせであることに気づき、点字のいろはを教わるために按摩を呼んだのだった。

そして、南無阿弥陀仏の紙片と点字の考え方を組み合わせ、次のような表を作成した。

これに従って、暗号を解読すると、

 

「ゴケンチヨーシヨージキドーカラオモチヤノサツヲウケトレウケトリニンノナハダイコクヤシヨーテン」

 

となる。

”五軒町の正直堂から玩具の札を受取れ、受取人の名は大黒屋商店”となり意味もわかるのだが、なぜ玩具のお金をもらう必要があるのかについて、少し悩んだ。だが、松村はいちばん安全な隠し方は隠さないことであると考えた。つまり、玩具と見せかけて本物の紙幣であると。そして、私に借りた十円を使って商人風に変装し、風呂敷包みを抱えて帰ってきたというわけだった。

 

5万円に狂気し気持ちよさげに話す松村を見ていた私は、ついに我慢できず笑い転げてしまった。そして、私は松村にこう言った。「暗号文の答えを八字づつ飛ばして読むということはできないだろうか」と。

 

ケンチヨーシヨーキドーカラオモチノサツヲウケトレケトリニンノナハイコクヤシヨーテ

 

「ゴジョウダン(御冗談)」という言葉が浮かんでくるのだった。実は、すべて私のいたずらであったのだ。私は、すべてを松村に話した。

  • 正直堂という印刷屋は私の遠い親戚で、借金のために先日訪れていたこと
  • 正直堂にあるおもちゃの紙幣は大黒屋という長年の得意先の注文品と知ったこと
  • 煙草屋の娘が差入屋に嫁いでいるのはでたらめ

松村が私にまんまとだまされたというわけだった。このトリックの出発点になった二銭銅貨を手に入れたわけについては、詳細な説明はできない。ある人に迷惑がかかるかもしれないから。私が偶然それを所持していたと思ってくれればよいのである。

「二銭銅貨」感想と考察

1923年(大正12年)に発表された乱歩のデビュー作ですが、シンプルながらも後に繰り返し描かれる乱歩的な要素(変装、大胆不敵な犯行方法等)が凝縮されています。

冒頭の「あの泥棒が羨ましい」という始まりもつかまれますし、オチの脱力感も人間椅子をどこか思わすくらいストンと落としてくれ、心地良く感じました。

当時の時代背景も感じることができて、今読み返すとどこか懐かしいような気分にもさせてくれます。

5万円の価値

すこし気になったのが、紳士泥棒が盗んだ5万円の価値です。

大きな電気工場の1万に近い職工たちの給料の大半を盗んだわけですから、それはもうたいへんな金額だったのではないかと想像できます。いったい、今の金額になおすとどれほどの価値があるのでしょうか?

 

2千万円程度

 

おおよそこれくらいの金額のようです。やはり、相当な大金ですね。すると、作中で懸賞金とされたのは一割でしたから、今でいう200万円程度になるわけです。こうすると、金額はぐっと下がってしまいますね。松村のように、届け出ずに独り占めしたくなりますね。

ちなみに、二銭銅貨そのものを今売買しようとしても、さほどの価値はなく、相場は1000円~程度のようですね。

暗号 点字と南無阿弥陀仏の組み合わせ

暗号については、なるほどと思いました。乱歩自身さまざまな暗号に精通していたわけですが、本作には表がちゃんと記載されているので、しっかりとわかります。

あまりミステリーのトリックなどの物分かりがよくないほうなのですが、この作品については一目でわかるので、とてもありがたかったです。

南無阿弥陀仏という日本的なものをミックスするのが、なんとも趣があって好きなところです。

疑問点  私が二銭銅貨を手に入れたのは偶然?

この物語は、松村が二銭銅貨に興味を示しいろいろ考えて、謎(私のいたずら)を解いていくところがメインですが、この発端となった二銭銅貨の入手先が明記されていません。

最後にこのような意味深な文章が書かれているのみです。

最後に、のトリックの出発点となった二銭銅貨については、私は茲に詳しい説明を避けねばならぬことを遺憾に思う。若し、私がへまなことを書いては、後日、あの品を私に呉れたある人が、飛んだ迷惑をるかも知れないからである。読者は、私が偶然それを所持していたと思って下さればよいのである。

となっており、読者にとっては偶然と考えるしか手だてがないです。いくら小説を読み返してみても、入手先をほのめかすような記述はありません。

これは、乱歩が自然な入手先を書き入れるのに苦心したために、このような形になったのかなとも想像します。私が二銭銅貨を机の上に置くシーンを時系列通りに書くと、あまりにわざとらしくなってしまいます。これでは読者をだますことはできません。

かと言って、最後にそれを書いても後出しじゃんけん感が強く、ミステリーとしてどうなの?となってしまうでしょう。

だから、このような形で意味深に、ある人に迷惑かかるから言いにくかったみたいな雰囲気でまとめたのかなぁと。あくまで勝手な想像ですが。

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まとめ

「二銭銅貨」のあらすじ・感想(考察)について見てきました。短いながらも、とても読みごたえのある探偵小説で、評価の高い作品となっています。

本記事のあらすじで、ストーリーはばっちり伝わるかと思いますが、乱歩の文章で読むと当然ながら面白さは格段にちがいます。ぜひ、面白いと感じたら原文で読んでみてはいかがでしょうか。人気の作品なので複数の本に収録されています。

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ただ、なかでも個人的にはこちらの傑作選がおすすめです。他の作品も名作がたくさん読むことができますよ📖

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