江戸川乱歩「芋虫」のあらすじ(ネタバレ)|発売禁止になった理由は?グロテスク趣味の極致

江戸川乱歩の短編小説の中でも、グロテスク趣味の極致とも言えるのが「芋虫」です。伏字だらけで発表され、戦時中には発禁処分となった問題作です。

そんな「芋虫」のあらすじ(ネタバレなし・あり)、発売禁止になった理由について、見ていきたいと思います📖

「芋虫」の簡単なあらすじ(ネタバレなし)

戦争で負傷し、左右の手足を失い、耳も聞こえず言葉も喋れなくなった須永中尉は、30才の妻 時子とともに暮らしています。中尉は、口に鉛筆をくわえて書く、目や表情を使うなど以外に伝達する手段を持たない不自由な肉塊で、まるで大きな芋虫のようでした。

負傷して内地へ送り返された夫と病院で初めて見た時、時子はほんとうに悲しくなり、人目もかまわず泣き続けました。彼の四肢の代償として金鵄勲章が授けられ、親戚や町内の人々もやってきて、しばらく騒がしい日々を過ごしました。しかし、やがて世の中も落ち着き、須永中尉のことなど世間の人々から、すっかり忘れ去られてしまいます。

田舎の一軒家で、二人は静かに生きていました。しかし、夫の旺盛な食欲・情欲に影響されてか、時子もまた肉欲の餓鬼となり果てていったのです。ある時、彼女の中の野生がいっそう激しくなり突然、夫の布団の上へと飛びかかっていきました。夫は急なことに驚き、つぶらな両目で(唯一、須永中尉の顔面における正常な器官)で、時子を睨みつけるのでした。

時子は「何だい、こんな眼」と言いながら、病的に興奮し無感覚になっていきました。ハッと気づいた時に、眼前に広がっていた光景とは・・・

以上、簡単なあらすじでした。これだけでも尋常でない程おどろおどろしい小説ということが伝わりますが、乱歩の描写はもちろんこんなものではありません。

結末がお知りになりたい場合は、次の詳細なあらすじをどうぞ。

「芋虫」の詳細なあらすじ(ネタバレあり)

戦争で負傷し、左右の手足を失い、耳も聞こえず言葉も喋れなくなった須永中尉は、30才の妻 時子とともに暮らしています。中尉は、口に鉛筆をくわえて書く、目や表情を使うなど以外に伝達する手段を持たない不自由な肉塊で、まるで大きな芋虫のようでした。

わずかの年金では暮らしがおぼつかなかった2人は、夫の上長官であった鷲尾少将の好意に甘えて、邸宅の離れの座敷に無償で住まわしてもらっています。

夫が病院から帰ってきた当初こそ、四肢の代償として金鵄勲章が授けられたり、親戚や町内の人々もやってきたりと、騒がしい日々を過ごしました。しかし、やがて世の中も落ち着き、須永中尉のことなど世間の人々から、すっかり忘れ去られてしまいました。

時子は鷲尾少将からも

「あの廃人を三年の年月、少しだって厭な顔を見せるではなく、自分の欲をすっかり捨ててしまって、親切に世話をしている」

と言われ、貞節な妻として思われていました。初めの頃は確かにそうでしたが、今の彼女の心のうちには、情欲の鬼が巣くっているのです。哀れな亭主を、ただ自分の情欲を満たすだけのために飼ってあるけだもののように、または一種の道具のようなものと、思うほど変わっていたのです。

夫は体は無残な状態ですが、食欲は充分あり、健康を保っていました。また、不自由であるが故なのか、夫はいっそう情欲が旺盛になっていました。ただ、常人の頃に教え込まれた軍隊的な倫理観と敏感な情欲は彼の頭の中で矛盾するのか、苦悶の表情を浮かべているようにも見えました。時子は、そんな表情を見るのが嫌いではありませんでした。むしろ、妙に弱い者いじめの嗜好を持っていた彼女は、相手をいたわるどころか、情欲に迫っていくのでした。

ある晩、時子は悪夢で目が覚めます。横を見ると、生きたコマのような肉塊がありました。夫は天井をじっと見つめていました。時子は不気味に思い、目が冴えて眠れなくなりました。そして、過去の出来事が思い出されるのでした。

  • 夫が負傷し、病院で初めて対峙し、悲しみの余り泣き崩れたこと
  • 「両手両足を失っても命を取りとめたのは、須永中尉だけでほんとうに奇跡だ」と言われたこと
  • 四肢の代償として、功五級の金鵄勲章が授けられたこと
  • 親戚、知人、町内の人々から名誉、名誉という言葉が降りこんできたこと
  • 鷲尾少将の好意で、邸宅の離れ座敷を無賃で貸してもらえるようになったこと
  • 月日がたつにつれ、須永中尉のことなど人々から忘れ去られたこと
  • 親戚や両親などもやって来なくなり、皆薄情者だったこと
  • 夫が、勲章や彼の武勲を書いた新聞を持ってくるよう、時子にたびたび要求したこと
  • 夫が名誉に飽き、食欲と情欲が盛んになったこと
  • 時子自身も、じょじょに肉欲の餓鬼となり果てたこと

そんなことを思い出してるうちに、彼女の中の野生があらあらしくなり、湧き上がる兇暴な力を押さえることができず、突然夫の布団の上に飛びかかっていきました。夫は怒ったのか、叱責のまなざしで彼女を睨みつけました。

かまわず向かっていく時子でしたが、夫はいつものように妥協せず、刺すように彼女を見据えるのでした。

時子は「なんだい、こんな眼」と叫びながら、病的に興奮しながら夢中になって両手を相手の眼にあてがいました。そしてハッと気づくと、彼女の下で、眼から真っ赤な血を噴き出した廃人が踊り狂っていたのです。

その時、彼女は”夫の物言う両眼を、安易な獣になりきるために邪魔なもの”、さらに本心では”夫をほんとうの生きた屍”にしてしまいたかったという、己の恐ろしい考えに直面しました。時子は「ギャッ」と叫びながら、医者の家へと走りました。

医者がやってきても、夫はまだ同じように激しく踊り狂っていました。痛み止めの注射、手当をしてもらい、医者は急いで帰っていきました。

時子は、夫がもがき止んだ頃、泣きながら「すみません」と言い続け、胸元に「ユルシテ」と幾度も書きました。時間も経ち、しだいに夫の様子も落ち着いてきたころ、また胸に「ユルシテ」と書きましたが、肉塊は身動きせず表情も変えませんでした。

時子は何と言うことをしてしまったのかと、泣き出しました。そして、鷲尾少将に長い懺悔をするのでした。そして、少将とともに須永中尉のいるはずの部屋へ向かったのですが、そこはもぬけの殻でした。時子は、夫がさっきまで寝ていた枕もとの柱に「ユルス」としるされているのを見つけます。

彼女はハッとすべての事情がわかったような気がしました。夫が自殺をしたのではないかということを。

急いで外に出、鷲尾家の召使いたちも呼び、闇夜の捜索が始まりました。須永中尉の書いた「ユルス」には、時子の行為に立腹して死ぬのではないという意味が込められており、それがより彼女の胸を痛くするのです。

時子と少将が、庭の古井戸のある方へ向かっている時、這うようなかすかな音が聞こえてきました。そこには、真っ暗な一物がのろのろうごめいていたのです。ゆっくり前進していましたが、突然頭がガクンと下がり、身体全体がずるずると地面の中へと消えていきました。そして、地の底から、トボンと鈍い水音が響きました。

スポンサーリンク

「芋虫」が発売禁止になった理由

昭和4年(1929年)に雑誌「新青年」に発表されたこの作品は、過激な表現が多いため伏字だらけで発表されました。当時は、プロレタリア文学が盛んなこともあってか、反戦小説として左翼から激賞されました。

たしかに、戦争の悲惨さ、極端な例ではありますが傷痍軍人のその後が描かれており、戦争の恐ろしさを強調しているように思えます。

やがて、戦争が激しくなっていき、昭和14年(1939年)に発禁処分となったのです。

ちなみに、乱歩自身はこのことについてどう思っていたのでしょう?

「左翼より賞賛されしものが右翼に嫌われるのは至極当然の事であり私は何とも思わなかった。」

「夢を語る私の性格は現実世界からどのような扱いを受けても一向に痛痒を感じないのである」

と、まったく意に介していないようです。純粋に、苦痛・快楽・エゴといった人間の醜い部分を書きたかったのではないかと思います。

もちろん、現在は「芋虫」が収録されている本が、複数の出版社から出ています。本によっては、一部伏字のままになっているものもあるようですが、私の持っている「江戸川乱歩傑作選」(新潮社)の文庫では、全て掲載されています。

また、丸尾末広による漫画バージョンもあります。小説ではイメージしにくい状況が、明確に描かれており、より深く江戸川乱歩の世界へ入り込めることでしょう。

あとがき

江戸川乱歩の短編小説「芋虫」について、あらすじ・発禁になった理由について、見てきました。あらすじだけでも、後味の悪い濃い作品ということが伝わったのではないでしょうか。読後は「気分が悪くなった」という感想を抱く人も多いようです。

ミステリー小説の要素は薄いですが、このおぞましいほどの心理描写は一読の価値があると思います。

また、この作品は、時子の視点で語られており、須永中尉がどう思っているかははっきり書かれていません。須永中尉の立場を深く想像して読んでみると、また違った見え方がしてくるのかもしれません。

kanren01
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ad3
スポンサーリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。