江戸川乱歩の短編小説の中でも人気の「屋根裏の散歩者」、映画・アニメ・漫画化もされている乱歩らしさが溢れる名作です。
当時は、トリックの部分が都合良すぎなのでは?などと批判もされたようですが、それ以上に作品の着想や主人公の独特なキャラクターなど魅力がたっぷり詰まっており、時代を越えて読み継がれる物語となっています。
本記事では「屋根裏の散歩者」のあらすじ(ネタバレあり)をまとめています。小説を読まなくても、内容がわかるようなコンパクトなあらすじになっています。サクッとストーリー・トリックを知りたいという方に、おすすめです☆
また、感想や注目の映像作品なども載せていますので、小説だけでなく映像でも浸りたいならぜひご覧になってみてください👀
「屋根裏の散歩者」あらすじ(ネタバレ)
この物語の主人公 郷田三郎は、どんな遊び・どんな仕事をしても、全然世の中に楽しみを見いだせない男でした。学校を出てから、職を転々とし、さまざまな遊戯をしたものの、退屈でした。
そんなときに、名探偵 明智小五郎と偶然知り合いになったのです。そして、明智が話す犯罪事件に強い関心を持つようになり、しばしばお互いを訪ねるほどの仲になりました。犯罪は自分を退屈から解放してくれる方法だと考えた郷田ですが、さすがに自分が犯罪者になるのはいやでした。
明智と出会って一年も過ぎたころ、郷田は新築の東栄館という下宿屋へ移りました。変わった癖を持つ郷田は、押入れの中で寝ることを始めます。そのうちに、押入れの天井から屋根裏へと入れることに気づき、そこの日から彼の屋根裏の散歩が始まったのでした。
郷田は有頂天になり、東栄館に住む人々の秘密を屋根裏から覗き見ることを楽しみます。普段、反資本主義の議論をする会社員がもらったばかりの昇給の辞令を嬉しそうに眺めていたり、女中への文をもってもじもじしている青年がいたり、他人の秘密を愉しく覗いていたのでした。
郷田は、歯科衛生士の遠藤という男を天井から覗いたときに、ある殺人方法を閃きます。ちょうど、天井の覗き穴の真下に寝ている遠藤の口があったのです。天井の穴から遠藤の口へ毒を垂らしさえすれば・・・
郷田は、遠藤を殺しても殺人罪が発覚しないと考えたのです。なぜそう考えたかというと、
- 遠藤の部屋にモルヒネがあること
- 遠藤と知人なので、部屋に上がりこんで、隙をついて容易にモルヒネを盗めること
という理由からです。遠藤の部屋にモルヒネがあったのは、ある女と一度情死をしかけたことがあり、その時のために用意していたからでした(遠藤は医学生なので簡単に入手することができた)
実際に天井から毒を垂らすという犯罪を試みて、気がかりなのは薬の致死量の問題です。遠藤の体質に対して、どれだけの量が必要なのか?ただ苦悶するだけで終わってしまわないか、これが問題でした。
しかし、そうなっても、
- 天井裏は新築でホコリもまだたまっていない
- 指紋は手袋で防げる
- 遠藤と知り合ったのは最近で恨みを持つような間柄ではない
など事から、自分が疑われることはないと考えたのです。が、これは虫のいい理屈で、ひとつの重大な錯誤があることに、彼はこの時点で気づいていませんでした。
郷田は折を見て遠藤の部屋を訪問し、予定通りモルヒネを盗むことに成功します。その夜、部屋に帰り、モルヒネと砂糖・アルコールを熱心に調合していると、こんな考えが浮かびます。
「なんの恨みもない人間を、ただ面白さのために殺してしまうとは、正気の沙汰なのか?」
と。毒薬の瓶の前で物思いに耽っていると、ある致命的な事実に思い至ります。
それは、
遠藤の大きく開いた口が、一度、天井の節穴の真下にあったからといって、その次も同じようにあるとは限らない
ということです。そうです、そんなことはまずないでしょう。そう思った郷田でしたが、それ以降も屋根裏の散歩をする際には、シャツのポケットから毒薬を離したことはないのでした。
屋根裏の散歩をはじめて10日ほどたったころ。遠藤を天井穴から見下ろしたとき、ちょうど口が穴の真下に位置するではないですか。
彼は震える手でポケットから瓶を出し、栓を抜いて、ポトリポトリと毒薬を垂らしました。そして、遠藤が死んでいく様をじっと眺めていました。叫び声ひとつ立てず、鼾をかきながら死んでいくのを見て、意外と人殺しなんてあっけないものかと落胆したのです。
予定通り、瓶を穴から遠藤の部屋へと投げ落とし、天井裏に何の痕跡も残していないことを確認してから、大急ぎで自分の部屋へと戻りました。ほっとしたのも束の間、ポケットに瓶の栓が入ったままなのに気づき、再度現場へ行ってそれを天井穴から落としました。
殺人なんてこんなもんかと感じた郷田でしたが、その直後から平常心を失い、翌朝は怪しまれるのではないかと不安に過ごしました。
数日経っても、誰も郷田を怪しむ物はなく、計画は見事に成功しました。郷田の工作によって、遠藤は毒を飲んで自殺したものだと皆は信じていました。そんな時、明智小五郎が訪ねてきたのです。
明智は遠藤の事件について郷田に質問をしますが、我が身が安全と思っている彼は明智をからかってやりたい気持ちになります。現場の部屋まで明智を案内しますが、その時に明智は遠藤が殺害された朝にも目覚まし時計が6時にセットされていた事実に気づきます。
郷田は急に足元の地盤がぐらついたように感じました。明智は入念に部屋を調べ出しましたが、天井板にまでは気が付かなかったようでした。
明智はふと郷田に「ちっとも煙草を吸わないようだが、よしたのかい」と尋ねました。大好物の煙草のはずが、郷田はすっかり忘れていたのです。しかも、3日前から吸いたいと思わなくなったと明智に告げました。すると、明智は「じゃあ、ちょうど遠藤君の死んだ日からだね」と言いました。
ある日、十字頃家に帰ってきた郷田は布団を出すために押入れをあけたら、死んだ遠藤の首が天井から逆さまにぶらさがっていたのです。しかし、それはよく見ると明智でした。明智が屋根裏から降りてきたのです。「ちょっと君のまねをしてみたのだよ」と。そして、屋根裏で拾ったというボタンを見せて郷田の物だねと確認してきました。郷田のシャツの2番目のボタンが取れていて、まさに同じ型だったのです。郷田は観念し、すべてを打ち明けました。
その後、明智はこの犯罪には証拠が何一つなかったことを告げた。ボタンについては、先日郷田に会った際に第2ボタンが取れていることに気づき、明智がボタン屋で仕入れて準備していただけだったのです。証拠をつきつけないと、認めないだろうことを見越して。
郷田が事件以降、煙草を吸わなくなった理由は、毒薬の瓶を節穴から落とした時に、ある光景を見ていたからだったのです。記憶からは抜けていたのですが、遠藤の巻き煙草に毒薬がこぼれていたことまで、ちゃんと見ていたのです。それが、心理的に彼を煙草嫌いにさせてしまっていたのでした。
「屋根裏の散歩者」感想
事件が起こる前段階で説明される郷田三郎という主人公のちょっと変わった犯罪思考癖と言われるような描写が印象的でした。
職業や下宿先を転々として、遊びもいろいろし尽しても、世の中をおもしろいと思えなかった郷田を熱中させたのは、犯罪でした。実際に、犯罪を起こすのは怖いけれど、犯罪者の真似事(金持ちらしい人を見つけると尾行してみたり、乞食・学生・女性などに変装して町をさまよい歩いたり)をして楽しんでいたのですが、このような描写がとても乱歩的でわくわくします。郷田の変わりっぷりが、このエピソードでよく伝わりますよね。
この物語のいちばんおもしろいところは、屋根裏を散歩し他人の秘密を盗み見るということなわけですが、郷田なら楽しんでやりそうだなあと自然に思えてしまいます。前段での犯罪の真似事を楽しむような奴ですから。ふつうに考えたら、覗きですから。それを、”屋根裏の散歩者”というちょっと気のきいた呼び方にするのも、素敵です。なんだかわくわくするようなネーミングですよね。
トリックとしは、天井の穴から毒薬を寝ている人の口に垂らして殺害するというシンプルなものですが、その事件を思いついてから実行、そして明智に見抜かれるまでの郷田の心理描写がしっかりされているのも、魅力のひとつです。
計画のアイデアを思いついて興奮したり、いざ実行する前に迷ったり、殺害直後に刺激の少なさにがっかりしたり、と思えば急に怯えたり。数日してもう安心だと思い気がゆるみ、明智を現場まで案内し、そこからまたびくびくする日々が始まったり。常に、郷田の気持ちは上がったり下がったりして、読者をどきどきさせてくれます。
名探偵明智小五郎の人となりがわかるのも面白いところでした。郷田とカフェで偶然知り合い、その後はお互いの家を行き来するくらいの仲になっていたということに、ちょっと驚きでした。郷田が犯罪に強い関心があることに気づき、一種の観察対象?にしていたのでしょうか。時代設定ははっきりわかりませんが、明智小五郎が他の大事件を解決していく間に、こんな事件も解決していたのだなと想像しながら、読むのもまた一興だと思います。
短編ではありますが、郷田の思考・感情の変化の流れが書かれており、そこが私の印象に残った点でした。発表当時は、”天井の穴から毒で本当に人を殺せるのか?”と批判的な意見もあったようですが、そんな細かいことは抜きにして、その着想の独特さ・犯人の内面描写が魅力の作品ではないかと思います。
「屋根裏の散歩者」動画(映画・アニメ・YOUTUBEは?)
本作は、多く映像化されています。ここで主なものをまとめています。
映画
映画は4種類公開されています。
- 1970年版
- 1976年版
- 1994年版
- 2007年版
- 2016年版
2016年版がこちらです。
ちょっと原作とは印象が違いますが、これはこれでありなのかなという感じ。多くの方がレビューを書いておられますが、そのあたりの意見が多いです。小説を抜きにして、映画単体で見るという場合は、アリな作品ではないでしょうか。
その他の映画作品はこちらでチェックできます。とりあえず、ジャケット写真がどぎつい!小説とは推しどころが違うのでしょうね~
漫画
漫画もいくつか発売されています。
- 『江戸川乱歩怪奇漫画館 屋根裏の散歩者』 古賀新一
- 『漫画 屋根裏の散歩者』 泉こうてん
映画同様、漫画もなぜか表紙が必要以上に恐ろしい仕上がりになっています。なんだかホラーみたいな色合い、そこまで怖くないんですけれどね。
アニメ
1986年『青春アニメ全集』で放送されていたようです。現在、視聴できる方法を調べてみましたが、残念ながらわかりませんでしたm(__)m
YOUTUBE
YOUTUBEにも朗読動画や、違法でしょうが過去のドラマ・映画等の動画が挙がっているようです。ラブシーンをメインで描かれがちな本作ですが、最近では2015年NHKで放送されたドラマで満島ひかりが明智小五郎役を務めた作品が、新鮮で評判でした。明智役を女性がすること自体がまず新しいですよね。
まとめ
「屋根裏の散歩者」のあらすじ・感想・映像作品についてみてきましたが、いかがでしたでしょうか?
かなり具体的なあらすじ(ネタバレ)ですので、ほぼこれだけで内容が伝わるかと思います。一言で要約すると、
”天井裏から毒薬を寝てる人の口に垂らし殺害する”
という物語です。この変態的なアイデア、そしてそんなことを自然に実行しそうな郷田というキャラクター、乱歩さしさが凝縮された素敵な作品です。
映像作品は小説とまた趣がちがうようなので、好みは分かれるところでしょうが、お時間に余裕があればいろんな屋根裏の散歩を楽しんでみてはいかがでしょうか(^^♪
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