「ミッキーマウスの憂鬱」という小説、ディズニー好きなら気にならずにはいられない衝撃的なタイトルな本です。夢の国であるはずのディズニーランド、その主役であるミッキーマウスにどんな憂鬱があるの!?と、タイトルでまず心をぎゅっとつかまれます。
今回は、松岡圭祐さんの小説「ミッキーマウスの憂鬱」のあらすじ・感想についてまとめています。登場人物紹介・詳細なあらすじ(ネタバレあり)・感想・印象的な名言名セリフの順に書いています。本の内容が気になっている方はぜひご覧になってみてください。
「ミッキーマウスの憂鬱」主な登場人物
後藤大輔
美装部所属の準社員、21歳。正義感にあふれ、行動力のある若者。ただ、ちょっと気が読めずにズレてるところもある。
藤木恵理
美装部所属の準社員。ダンサー志望だが、オーディションに落ち続けている頑張り屋さん。気弱で仕事でのミスも多い。
久川庸一
ミッキーマウス(パレード用)の中の人。無口でクールだが、情に厚いところがある。
門倉浩次
ミッキーマウス(ショー用)の中の人。目つきが鋭く、ハングリーな凄みを醸し出している。
桜木由美子
運営部運営課に所属する準社員。仕事ができるしっかりもので、面倒見もよい。
早瀬 実
美装部の責任者(準社員)、肩書はスーパーバイザー。年齢は30過ぎ。生真面目で淡々としているが、部下想いな一面もある。
あらすじ【ネタバレ】
【1st Day】
ディズニーランドで準社員(アルバイト)として働くことになった後藤大輔。夢の国で働けると期待に胸をふくらませていたが、いざ働いてみると、裏の仕事には夢なんてなかった。後藤は美装部という部署に配属されて、パレードに出演するクルーたちの着ぐるみを着せる仕事をすることになった。
裏方で働く人たちと接していく中で、正社員と準社員との格差、人間関係のストレス、など現実の社会と同じような構造が裏側には当たり前にあることを目の当たりにする。また、自分の仕事が、ミッキーやドナルドなど主要キャラクターではなく、名もしならいようなキャラの着付けを行うだけというのもつらかった。思い描いていた理想とのギャップに嫌気がさしてきた後藤は、つい怒ったり、出しゃばった真似をしてしまったり・・・悶々とした時間を過ごしていた。
そんな時に、クラブ33で行われる臨時会議へ美装部も参加するように招集がかかった。クラブ33は普段重役たちが利用するホテルのスイートルームのような豪華な施設で、末端のアルバイトがそこに呼ばれることはまずない。会議には、本社の中村専務はじめ、ディズニー役の久川・門倉などのキャストらから裏方の者まで、経営陣から従業員までずらりと集まった。
そこで、ディズニーランドを揺るがすある重大な事件が明らかになった。ショー用ミッキーマウスの着ぐるみが消えてしまったのだ。しかも、着ぐるみを最後にさわったのは、美装二課準社員の藤木恵里だった。重要なキャラクターを準社員ひとりに任せた美装部の怠慢だという空気になるが、中村専務は会社全体の問題と考えたほうがよいと発言し、場をまとめた。
そして、ショー用ミッキーの着ぐるみが見つかるまでの急場の対策として、パレード用ミッキーの着ぐるみでショーを行うことが決められる。しかし、ミッキー役だけを交代するわけにはいかない(すべてのキャラクターはミッキーの身長に合わせて配役されているから)。そのため、パレードのクルーたちがパレード・ショーどちらも兼ねることが決まる。パレードのミッキー担当の久川とショーミッキー担当の門倉との対立が深まる。
【2nd Day】
後藤は、久川の楽屋の掃除の仕事を頼まれた。(正社員でないとミッキーの着付けはできない)久川に認められたいと考えた後藤は、ショーに向けて集中している久川につい自己紹介したり、ショーの感想など話しかけてしまい、「黙って掃除してくれないかな」と言われてしまう。
その時、廊下から口論の声が聞こえ出てみると、クルーたちが藤木恵里を囲み、「ダンサー志望で何度もオーディション滑ってるし、恨みに思って隠したんだろう」などと問い詰めていた。久川が出ていき、藤木を別の仕事場へ変わってもらうように頼み、その場をおさめた。
久川の部屋の掃除を終えた後藤は、美装部のオフィスに戻り待機していた。そこに、ビッグサンダーマウンテンが緊急停止したとの連絡が入る。線路上に美装部のコスチュームを着た人がいるとのことだった。
後藤と桜木由美子は、いてもたってもいられず現場へと駆け出した。やはり、線路上にいるのは恵里だった。警備員に「線路にでられるのは正社員とエンジニアだけだ。規則違反はクビになるぞ」と止められたが、後藤は構わず線路を歩き、恵里の元へ向かった。恵里と話していく中で、仕事を純粋に楽しいと思っていて前向きに頑張っていることを知る。恵里はとても純粋で素直で、それゆえ傷つきやすい一面があるのだ。さらに恵里は「ミッキーを隠したり、盗んだりしていない」と言った。そこに、調査部の沼岡重松が現れ、着ぐるみ盗難の犯人、さらにアトラクション停止の賠償請求すると恵里を連行していった。後藤は、掃除のため久川の楽屋に戻った。久川は恵里を心配しており、「藤木さんには不当な圧力をかけないように言っておく」と言った。
クラブ33では、沼岡はじめ大勢の社員たちが集まって、ミッキー着ぐるみ紛失・アトラクション停止の責任について、恵里を問い詰めていた。「私はやっていません」と言う恵里の言葉に耳を貸さず、脅すような態度の沼岡たち。久川はたまりかねて「少々、断定が過ぎやしませんか」と声をかけた。沼岡はうんざりした顔で「門倉さん用の着ぐるみ発見をそんなに遅らせたいのか?」と反論した。門倉は、冷徹な目で久川をにらみつけた。
そのころ、美装部オフィスでは正社員の笹塚が、恵里は間違いなく着ぐるみをトラックに載せていて、問題なく仕事を終えていることを示すデータを見つける。着ぐるみを移送する際に謝って、ディズニーシーに運ばれた可能性が高いことがわかる。移送する間に、外注の業者が介在しており、移送の仕組みに問題があったのだ。それを聞いた後藤と由美子は、着ぐるみがあるシーのデリバリーセンターへと駆け出した。
大雨が降る中、センターへ到着した二人は、担当者に事情を説明・案内をしてもらう。ミステリアスアイランドに急ぎ、”海底2万マイル”のバックステージに入って非常階段を下り、目的の倉庫へ着くと、大雨で浸水していた。積み上げられたコンテナの最下段の箱は既に水中だった。倉庫の奥に積み上がったコンテナの上に、着ぐるみが入った青い袋があった。
由美子は急いで、クラブ33に連絡し、着ぐるみを発見したことを告げる。恵里のせいと決めつけていた沼岡は狼狽するも、非を認めずに恵里が工作をした可能性や、ミッキー着ぐるみ救出も後藤たちでなく正社員がするように、と命令する。久川と門倉は、メンツにこだわる久川を軽蔑した。あと数分で水没するにも関わらず、正社員を派遣するとわめく沼岡に後藤はクビ覚悟で「ディズニーランドのために俺がミッキーを救いにいくからな」と宣言した。久川は沼岡の受話器を取り「本社が承諾した。すぐに救え。僕もそっちへ行く」
後藤は大急ぎでゴムボートで救出に向かった。何とか着ぐるみを回収できたものの、ボートに雨水が浸水し流されてしまう。その時、久川が水に飛び込み後藤を助けに向かった。二人で力を合わせて、無事ミッキー救出を成功させたのだった。
【3rd Day】
パレードビルの楽屋で、後藤と恵里はミッキーの着付けを行っていた。本来、主要キャラの着付けは正社員の仕事だが、上司であるスーパーバイザー早瀬が、恵里に自信をつけさせたくて許可していたのだった。
そこに、調査部の沼岡が現れ「後藤と恵里に非がある」と責め立てた。後藤が、複雑すぎる配送システムに改善の余地があったことを指摘するも、沼岡は「準社員が会社を批判かね」と返し、重ねて「遊び気分で幻想に浸って、パークを支える一員になったつもりでいる。きみらの無邪気な夢物語への忠誠心を利用して、安い時給でこきつかっているだけのことだ」と発言した。
さらに、沼岡はミッキーに近づき「きみも肝に銘じておくことだ、久川。一連の責任は準社員に責任を負わせる」と言った。その時、後藤と恵里がミッキーの頭部を持ち上げた。
何と、久川ではなく中村専務の厳しい顔が現れた。沼岡は言葉を失い「失礼しました」と逃げ帰った。専務は、後藤に「これからもよろしく頼むよ」、恵里に「きみも、いずれいいダンサーになれそうだな」と微笑した。
パレードの時刻が迫ってきて、久川の着付けのために先輩の部員を呼びに行こうとする後藤を、久川は「きみらがやるんだよ」と声をかけた。「でも、ミッキーは経験者が・・・」という後藤に「もう経験したろ。専務をミッキーにしたんだ、誰も文句は言わん」と久川。
そして、パレード開始の時刻。ディスパッチ1の扉が開き、パレードは動き出した。美装部員たちが手を振る。後藤の前をちょうど通過する時、ミッキーが後藤に向かって親指を立てた。後藤も同じことをしてみせた。
松岡圭祐「ミッキーマウスの憂鬱」の感想
東京ディズニーランドの裏側がいろんな視点で書かれた小説で、とても興味深く読むことができました。ミッキーの中の人はじめ、バックステージなど裏側の話が詳しく描かれているし、気にならない訳にはいきません。そして、ディズニーファンなら誰しも思うのが、「どこまで事実なの?」ということではないでしょうか。
著者の松岡圭祐さんは「千里眼」シリーズ、「催眠シリーズ」などで時事ネタを扱うことが多く、その取材力には定評があります。テロや扮装、北朝鮮の問題などその当時起きていたことを巧にストーリーに盛り込んでおり、現実をうまく小説に取り込む作家さんです。その点からも、今作の内容はかなりリアリティを感じてしまいます。
ただ、もちろんフィクション要素も含まれています。文庫版の解説でも触れられていますが、小説内でオリエンタルワールドという会社が出てきますが、実際は株式会社オリエンタルランドです。また、オリエンタルランドには調査部という部署はありません。といった感じで、現実と異なる部分も少しあります。
さて、ストーリーについてです。
このお話はたった3日間の出来事なんですが、主人公の後藤大輔がその3日間の間に劇的に成長します!1日目は、夢と魔法の国で働けると期待に胸をふくらませていたが、バックステージにあるのは現実だけとわかり、がっかりする。2日目は、ミッキー着ぐるみ紛失事件を必至に解決する。解決に至るまで幾多の障害を乗り越えていく中で、自分の仕事の意義、ディズニーランドを支えているのは裏方なんだと捉えるようになり、ぐんぐん成長していきます。
面白いので読んでる最中は気になりませんが、読後にふと思い返すと、成長スピードに驚かされます。こんなに早く意識が変わって仕事が楽しくなるなんて、羨ましい能力です!
また、後藤、藤木、桜木など若い登場人物は、ザ・若者っていう性格・キャラクターの持ち主です。後藤はこうと思ったら突き進んでいくタイプ、藤木は純粋で素直な反面傷つきやすい、桜木も仲間想いで熱いし。ちょっとイタイ感じもするけれど「若いっていいなぁ~」と思えるキャラたちです。自分もあの頃はこんな感じだったかも??と、若かりし自分の記憶がふとよみがえってくるかもしれませんよ。
ミッキー役の久川と門倉の関係、正社員と準社員を見下す様子、など裏側にはごく普通の人間社会と同じく、ドロドロとした人間関係がこれでもかと描かれているのが良かったです。ドロドロとしたマイナスの感情渦巻きながらも、着ぐるみ事件を乗り越えて、それぞれがもう一度、仕事へのやりがい・誇りを再認識し、輝きを取り戻すのが痛快でした。
名言・印象的な文章
ここでは、小説に出てきた印象的なセリフや文章をいくつかまとめています。
後藤が初めて、ミッキーの着ぐるみを見た時の描写。
倉庫のように雑然とした部屋の中、二段になった棚に、ミッキーマウスの頭部がいくつも並んでいた。
桜木由美子と尾野(美装部所属。後藤の先輩)の後藤についての会話。
「入ったばかりのころを思い出すのよね。あの一生懸命だけど、不器用で、まだ夢から醒めてないところが」
「まだゲストに片足突っこんでるからな。心配ない、すぐこっち側の人間になるさ」
ミッキー救出に向かう久川が門倉に向けて言った言葉。
「お前のミッキーは、俺にまかせておけ」
いつにもまして楽しそうに仕事をする由美子が、上司に言った言葉。
「ゲストのためにディズニーランドは存在するけど、それを維持しているのは会社の偉い人でもなければ、スポンサーでもない。わたしたち」
美装部の仕事を退屈と思う後藤に恵里が「辞めたい?」と聞いた時の、後藤の返事。
「ふしぎなもんだ。辞めたいなんてさらさら思わない。ここが魔法の世界でないってことがわかったから……、すべてが手作りだってことが嫌というほど理解できたから、僕たちが支えていかなきゃいけない。そんなふうに感じるようになったってことかな」
まとめ
松岡圭祐さんの「ミッキーマウスの憂鬱」について、あらすじ・感想・名言について見てきました。あらすじだけで、充分本の内容がわかるかと思います。仕事を通して若者が成長していくという王道ストーリーですが、仕事場がディズニーランドという斬新な設定なので、とても楽しく読めました。
小説には、ディズニーランドの裏で支える人たちの様子や数々の規則などがたくさん書かれているので、もっと知りたいと思われたら、ぜひぜひ読んでみてくださいね📖また、この本を読むことで新たな視点が得られるので、またディズニーランドに行くと違った楽しみができるのも嬉しい特典です☆
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